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NPO ja.ma.ta.(ジャマタ)は、病と共にいる人もそうでない人も、人間関係や環境を通じて「生きる力」を高めていくことを目指します。



【実現企画2】 ピア・サポート

”ピア”とは 仲間という意味で、”ピア・サポート”(peer support)とは、一般に、「同じような立場の人によるサポート」といった意味で用いられます。


骨髄移植を受けた北川ひろ子が、血液内科病棟に入院している患者のもとを訪ねます。
出会うきっかけは、①患者本人の希望 ②主治医の依頼 です。
企画1「JAMタイム」の場面も、ピアサポートといえます。

患者が、患者体験者と語り合うことを通して、生きる上で必要な「知恵」knowledge for well-beingを育てることが目的です。気付き(患者が自分の心身の状態を知る)と変化(行動の変容を図る)を目指します。

1人ジャマタ終了後は、患者との秘密は必ず守りながら、主治医と担当看護師へフィードバックします。よりよいケアへ繋ぐためです。


なせ、ピアサポートが求められるのか?

相手を理解するには、一般に「相手の話・気持ちに耳を傾ける」ことが大切と言われます。

では、病院の中ではどうでしょうか。

医療者は、患者を理解する大切さを学び、訓練を受けていますが、患者は「わかってもらえた」感を機会は少ないようです。なぜなら「この体験をしていない、あなたに何が分かるのか」と患者の心はあるからです。

患者同士でないと分からない気持ちを共有することで、安らぎや勇気となる等の効果が認められ、ピア・サポートは、日本でも多くの医療機関や地域で広まっています。

体験談をお伝えしましょう

重病患者の女性がいます
どんな治療にも効果とリスクが伴いますが、この女性は「治癒の可能性があるが、命がけの治療となる」ということが、様々な資料から分かり、ベッドの上で泣いています。


A先生は、女性のそばに来て励ましました。
「難しい決断だと思います・・・。
このあいだ、あなたと同じ治療を受けた方がいますが、成功して、1ヶ月で退院しました。
あなたもきっと成功します。頑張りましょう。」


しかし、女性の不安はおさまりません。
次にきた研修医B先生は、「今の治療はすごいんですよ。医療チームにはいろんな専門職がいます。全力であなたのケアに当たりますから、安心してくださいね。」


それでも、女性の不安はおさまりません。
女性はに不安を伝えますが、「あなたが弱気でどうする。みんな応援しているだ!」とうつむいて黙ってしまいました。


夫は部屋に来たC看護師に「僕が言っても・・・  なかなか前向きになってくれないんです。看護師さんからも何か言ってやってください」と言い、看護師はこう言いました。
「病は気からと言いますからね。あなたの心が弱気になっていると、身体もうまく作用しませんよ。ほら、スポーツ選手も言うじゃないですか。不安がっていると、成功するはずのこともうまくいかないことだってある。だから、いいイメージを持つことが大事だ、って。大丈夫です。あなた自身の力を信じてください。先生のことも信じてください。一緒にがんばりましょう!

女性は、2人の医師と夫と看護師から言われたことの意味はよくわかっています。
しかし、それと心が安らぐこととは次元が異なります。「安心しなさい」「気持ちをしっかり持ちなさい」と言われても「はい、わかりました」とはいかないのが、人の心です。

そこで、似た治療をしたDさんが、女性の傍にやってきました。
ベッド近くの低い椅子に腰を下ろし、下を向いたままの女性に「今、不安で不安でたまらないんですね」と声をかけました。女性は、目からポロポロと涙があふれ、うんうんと頷きました。

しばらく共に過ごし、女性は医療者・夫への「感謝」を言葉にし、目元口元を緩めて「ありがとう」と晴れやかな表情となり、退室しました。
その日から、女性は不安を訴えたり、涙をみせることはなくなったということでした。

Dさんは、女性に説明も説得もしていません。
ただ心境を察し、その気持ちに共感しただけでした。
感情的になったり、自分の体験談を押し付けない。女性の考え方と自分の考え方を比べるような心が働いていると、女性の心は閉じていったでしょう。

この例では、医療者も家族も、女性の回復を願って励ましたくて声をかけていました。しかし実際の医療現場では重症患者ほど、医療者も家族もかける言葉が見つからず困っている、と聞きます。つまり、患者が信頼する医療者・家族がいるいないに関わらず、患者の「今の辛さ・不安を、わかってほしい」という気持ちを受けとめられる”誰か”が不在である、という問題点は、今後の重要な課題です。

Dさんは北川ひろ子です。出会うことができた1人でも多くの方にとって、明日を生きる力へ繋がることを願って、安全性を最も配慮しながら行っています。